東京地方裁判所 昭和27年(ワ)8417号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)原告は、本件建物の前所有者訴外井戸昇は建物敷地の賃借権を土地所有者に対し抛棄した。原告は本件建物を他へ移築するため古材として買受けた。賃借権の消滅した地上に存する建物は建物としての価値を失つたものであり、この建物を目的とする賃貸借契約は目的物の消滅により当然に修了したと主張し、建物居住者たる被告等に明渡を求めた。
被告等は建物賃借権を主張してこれを争つた。
(判断)原告敗訴。判決は建物の賃借人は、その建物敷地の賃借権消滅後右建物所有者から古材として該建物を買受けた第三者に対してもその建物賃借権を以て対抗できる旨判示して原告の請求を棄却した。曰く。
「……中略……建物の賃貸借契約とその敷地の賃貸借契約は因り別個独立の法律関係であるから建物敷地の賃貸借契約の終了原因が直に建物賃貸借契約の終了を招するものでないことは論を得たざるところである。されば、建物の賃貸人とその敷地の借地権者が同一人である場合において、建物賃貸人が一方においてその敷地の賃借権を喪失した場合これによつて建物賃貸借契約も亦当然終了したとして建物賃借人に対し該建物の明渡を求め得ないことも亦明白である。建物敷地の賃借権消滅後該建物を買受けた第三者も亦建物敷地の賃借権消滅を理由として建物の賃借人に対し明渡を求めることができないことは借家法第一条及び前段説示に照し明白である。原告は本件建物敷地の借地権が消滅したから本件建物は建物としての価値を失い仮に被告井戸園子に本件建物の賃借権があつたとしても、右賃借権は当然に消滅した旨主張しているが、仮に本件建物の前所有者で敷地の借地権者である訴外昇が原告主張のように有効に建物敷地の賃借権を抛棄したとしてもこれによつて法律上当然に被告園子の本件建物の賃借権の消滅を招するものでないことは前段説示のとおりである。又建物敷地の賃借権の消滅は該建物の交換価値に甚大な影響を及ぼすものであることは正に原告主張のとおりであるが、しかし乍ら右によつては建物の交換価値の減少をすに止り、これのみによつては未だ直に地上建物に有形的な変更をもたらすものでなく、該建物は依然としてその効用を失はないこと明白で、右建物を目的とする賃貸借契約が目的物の滅失によつて当然に終了するものでないこと勿論である。原告は敷地の賃借権消滅の場合には地上建物は建物としての存在を失いこれを目的とする賃貸借契約は当然に消滅すると主張している。「地上建物は建物としての存在を失い」という文言の意味するところは必ずしも明白でないが、若し建物が有形的に消滅するという意味ならば該主張の失当なることは右説示に照し明らかである。又若し該建物所有者は敷地の所有者に対し右地上に建物を所有する正権原を失つたという意味ならば正にその主張のとおりであるがさればとて建物所有者が建物賃借人に対し自己の敷地使用権の消滅を理由に明渡を求めることの失当なことも亦前段説示に照し明瞭である。……以下略……」判決はかように説明した上、証拠によつて被告等の建物賃借権を認定して原告の明渡請求を棄却している。